臨床試験及び医療現場における信頼性及び応用可能性の高い情報流通システム(シミック株式会社社)
2022年度「Trusted Web の実現に向けたユースケース実証事業」において実証を行ったユースケースのうち、シミック株式会社の行った「臨床試験及び医療現場における信頼性及び応用可能性の高い情報流通システム」の内容をご紹介します。
ページ下部の各資料リンクから、より詳細な実証内容についてご覧いただけます。
背景
臨床試験及び医療業界では、現在においても重要な情報及びプロセスが紙媒体に記録されていることが多い。これにより、紙での運用が前提となっているものが多数存在し、更新内容の把握・最新版の共有方法が煩雑になり、工数を要している事例が存在する。以下がその一例である。
<臨床試験>
治験薬管理表 1 、業務委任記録(Delegation Log)2 、トレーニング記録(Training Log)3 、 ワークシート 4 など
<実臨床現場>
診療情報提供書 など
一方、既存の医療情報電子化システムを導入している場合にも、情報の信頼性、共有・流通の利便性及びコストベネフィットの観点で課題が顕在化している。以下がその一例である。
- 他人のアカウント情報を使用した医療従事者のなりすまし行為のリスクがあり、発生時にも技術的に検証困難
- システムの導入に際しては、ライセンス・構築・運用に多額のコストが必要になると共に、専門人材が必要(例:臨床試験でいえば EDC(Electronic Data Capture)5 など)
- 医療情報は非常に機密性が高く、情報の共有・流通に際しては ID管理や真正性、トレーサビリティ等が特に求められるが、既存のシステムは中央集権的で単一障害点を持つため機能的に必要十分ではない
加えて、近年、Wearable Deviceやオンラインコミュニケーションツールの普及に伴い治療の場も病院から生活の場に広がり、患者を中心としたケアを目指す方向性にシフトしており、臨床試験業界では分散型臨床試験(Decentralized Clinical Trial: DCT6 )デザインの確立、医療業界ではPHR(Personal Health Record)7及びEHR(Electronic Health Record)8 データの利活用が実現すべき大きな方向性として掲げられている 9 。これらの実現には、関係者間の信用を確保した上で情報の信頼性を担保する情報流通システムが必要不可欠である。
上記の現状及び将来的な方向性を鑑みて、相互に信用したユーザ/コミュニティ内で臨床試験及び医療に関する電子ファイルやデータをリーズナブル且つシンプルなUI/UXで共有・流通可能なシステムが必要であると考えた。その際、大前提として以下の要素について担保する必要があるが、大規模で中央集権型のシステムを構築するのではなく、Keychain Pte. Ltd.(以下、Keychain社)の提供するBlockchainフレームワークであるKeychain Core10の technical capability を活用し、応用可能 性の高いコンセプトでの企画・開発に重点を置いた。
- 自己主権型デジタルアイデンティティ(SSI)
ユーザーのデバイスによって制御されながら作成されるデジタルアイデンティティのことで、Keychain Core の場合は暗号キーペア
- データ真正性
データのデジタル署名を検証する機能
- データセキュリティ
静止時および飛行中のデータをエンドツーエンドで暗号化する機能
- 合意形成
アプリケーションの状態(またはデータの受け入れ)について、2者の間で合意に達することができる機能
なお、Keychain Coreは上記に加えて以下の機能を提供する。
- キーマネジメント(暗号キーペアの管理)
- ネットワークグラフ
- キーロールオーバー
- ID
- データ検証
- 任意のトランザクション
1 治験薬が管理され、治験依頼者より提供された「治験薬の管理に関する手順書」に従って、治験薬が管理され、被験者に適切に使用されたことを記録しておく文書。
2 治験のデータや被験者の安全に係るような重要な業務について、誰が何の業務を担当するかという「担当者とその責任範囲」を明確にするもの。
3 情報周知の証として残したトレーニング完了記録(日付と実施者の署名等)。
4 臨床試験等において通常カルテに記録されない試験固有の検査結果や医師の所見及び評価を中心に、実施計画書(臨床試験等の実施に関する必要な事項を定めた文書。)で収集が規定されている試験データを記録する病院内で使用する様式のこと。
5 インターネットを使い電子的に臨床データを収集すること、またはそのシステムを指す。電子的臨床検査情報収集ともい われる。
6 デジタル技術を活用し、病院に来院することなく患者の自宅など遠隔地で実施する臨床試験等のこと。
7 個人の健康・医療・介護に関する情報のこと。
8 医療機関が患者の既往歴、病態把握に必要な各種検査の結果(医用画像も含む)、医師の所見と診断を記録する診療録、処方箋(オーダー情報)などを電子的に記録・管理するしくみのこと。
9 https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000976105.pdf
https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/lofurc000000xnw9-att/lofurc000000xo2k.pptx
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/iryou_dx_suishin/pdf/siryou6.pdf
https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/iryou_kaigo_kenkou.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000546640.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000741661.pdf
10 Keychain Coreは、Singapore Fintech Awardなど、多数の表彰を受けているアプリケーション開発フレームワーク。ブロックチェーン技術や分散台帳技術を一般的な開発チームでも実装できるような環境を提供し、自己主権的デジタルアイデンティティ、データセキュリティ、さまざまな端末や通信環境における合意コンセンサス・取引を実装可能。
目的
臨床試験及び医療現場における機密性の高い医療情報を関係者で共有する上で、旧来の紙運用及び臨床試験や医療機関個別の運用に部分最適化されたシステムに依存せず、リーズナブルで且つ情報の信頼性を担保するシステムを設計することで、関係者間で必要なときに必要な医療情報を共有できる環境の構築を目指す。
課題とTrusted Webによって解決する内容
検証を行うデータ
- 送信側は送信データ(臨床試験データを含むファイルの内容)が改ざんされていないことを担保するため、署名及び暗号化を行う。そしてPairingした受信側の相手のみが署名の検証及び復号化が可能である
- 受診した暗号化ファイルは、Pairingした相手のDIDによって暗号化されたファイルであることが検証できるため、送信側のなりすましが行われていないことを確認できる
主な成果
実証期間内において、医療法人相生会 臨床研究部門(以下、相生会)に協力頂き、実際の医療機関ネットワークと弊社ネットワーク間において開発したプロトタイプシステムのフィールドテストを実施した。加えて、社内外の有識者及びステークホルダーに対してヒアリングを実施した。
フィールドテスト及びヒアリングから得られた成果、示唆、コメントは以下の通り
- (成果)フィールドテストは問題なく完了し、期待した挙動及び効果が確認できた
- (コメント・示唆)医療機関やアカデミア主導で実施する臨床研究や疫学調査など、低コストでの計画及び実施が要求され、現状ではデータインテグリティを担保できていない試験に対して導入したい。また、実施に対して多額のコストが掛かっている試験及び研究に対して、既存のプロセス自体に大きな変更を加えずにプロセス内での業務内容の簡素化を実現することで、コスト削減の可能性がある。
- (コメント)今回のプロトタイプシステムのアーキテクチャ及び得られる効果は、今後のあるべき姿の一事例であると感じる。一方で、医療現場及び臨床試験業界において現時点で要求されるデータインテグリティの考え方と比較するとオーバースペックであるとも感じるため、今回のプロトタイプシステムのアーキテクチャ更にはTrusted Webホワイトペーパーで要求される技術要件について社会全体が必要であるという認識を浸透させていくような活動が必要である
ユースケースに関連する資料
- 成果概要(PPTX 2枚でまとめたもの)(資料リンク)
- 最終成果報告書概要版(PPTXをPDF化)(資料リンク)
- 最終成果報告書(Word文書をPDF化)(資料リンク)
- デモ動画(Youtubeリンク)
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